1、暴力の種類
一般的に、DVの暴力は以下の5つの種類に分類できます。
① 身体的暴力
殴る、蹴る、物に当たる
② 精神的暴力
怒鳴る、暴言、無視、不機嫌になる、脅す
③ 性的な暴力
性行為の強要、避妊を拒否して性行為、パートナーが止めてもなお不倫をくり返す
④ 経済的な暴力
無理に働かせる、あるいは働かせない、家計の管理の独占、借金
⑤ 拘束
携帯チェック、特定の人に連絡させない、外出や交友関係の制限、ストーキング
具体的には、以下のような言動が該当します。
- 仕事遅く帰ってきたにも関わらず妻が食事の準備をしていなかったため、「お前は専業主婦なのになんで自分の仕事をしないんだ、役立たずだな!」と責めた
- 部屋に物が散らかっているためすぐに片付けるよう妻に伝えると、「わかった」と返事はしたものの動こうとしないため、「さっさとやれ!」とクッションを壁に投げつけた
- 夫のスマホを勝手に借りてSNSをチェックしたところ、見知らぬ女性からLINEが来ていたために誰からなのか問い詰め、連絡先を削除するよう強要した
- 妻と喧嘩した次の日は妻が存在しないかのように過ごした。また、妻の前でため息をついたり音を立てて扉を閉めたり舌打ちをした
第三者が見てはっきりと暴力と判断できるものから、これまでの加害者と被害者の関係性や被害者の感じ取り方によって暴力に含まれるかどうか変わりうるものまで、様々あります。
そのため、加害者側は暴力という自覚が無く、普通の暮らしを送っているつもりでも、被害者からすれば毎日が暴力に満ちた生活だった…ということもありえます。加害者と被害者の間には実はこのような目に見えない歪みが存在しており、加害者がそれに気が付いて暴力を止めない限り、歪みは際限なく大きくなっていきます。
2、DV加害者の心理
明確に被害者のことを傷つけようとする意思を持ってDV行為に及ぶ人はあまりいません。大半が自分の理想の家庭を作りたいと思っており、その気持ちから結果的にDV行為に及んでいます。
- 「自分のやり方は正しい。それに従わない妻がおかしい」
- 妻のためを思って言っている。良かれと思ってやっているのに、妻が協力しない」
- 「夫に自分のことをわかってほしい」
- 「普段から我慢しているのは自分なんだから、たまには爆発したって良いだろう」
- 「自分はこんなにも家族のために働いているのに、妻は何もやってくれない」
これらは加害者からよく聞かれる言葉です。もしパートナーも上記と同じ考えを持っていたのなら、DVを指摘され大石に行くよう促されたり、離婚を提案されたり、急に家を出ていかれてしまったりはしないでしょう。家族のメンバーそれぞれが思い描く「良かれ」は必ずしも一致しません。DV行為は一種の対人依存でもあります。家族を支配したい、自分の思う形にしたいという気持ちの表れです。
パートナーとの関係性を本当に良くしたいのであれば、加害者側の「こうしたい」「パートナーにはこうあってほしい」「家族はこうあるべき」という理想を家族に強いていないか、今一度確認してみる必要があります。
3、DV被害者に与える影響
夫によるDV、妻によるDV、どちらの場合も被害者は精神的な影響を受けます。一般的なものとして、以下のことが挙げられます。
- 暴力にあったときの記憶を突然思い出す。外の刺激に無反応になったり、一方で警戒心、緊張感が強くなったりする(PTSD的反応)。
- 暴力があったときのことを覚えていない。ぼんやりしている(解離)。
- わざわざ被害にあいやすい行動を取るようになる。逆に加害者側と同じような攻撃的な行動をとるようになることもある(トラウマの再演)。
- 「自分は価値のない人間である」「自分はダメな人間である」「誰も信用できない」「死にたい」といったネガティブな思考に陥り、慢性的な無力感、絶望感に陥る(認知の変化)。
また、DVは子どもにも影響を与えます。DVの場面を目撃する・しないに関わらず、子どもは夫婦間の空気を敏感に感じ取ります。夫婦仲を取り持とうとする行動をしたり、仲が良い時と良くない時の差に混乱したり、自分のせいで喧嘩をしていると思いこんだり…子どもにとって本来必要のない遠慮や不安、緊張といったストレスを与えることになります。
子どもの場合は自己表現の能力が不十分であるため、これらが頭痛や腹痛といった体の症状として出てくることもあります。さらに長期化すると「自己主張に暴力はつきもの」という価値観が形成され、子どものその後の人生を大きく変えてしまうかもしれません。