女性の強迫的性行動症(ホス狂い、ホス狂)

女性の強迫的性行動症の代表的なタイプです。20年くらい前よりありましたが、大きく取り上げられることはありませんでした。最近のホストクラブの競争激化、SNSの発展によって話題性が増し、社会問題化しています。特徴は以下のようなことがあります。

健康と病気の境界

ホストクラブに行くからといって病気とは限りません。お金持ちであれば少々ホストクラブにお金を使っても問題はないでしょう。また、お金がなくて初めてホストクラブに行って、高額な支払いを見て高い!騙された!と思う人は二度と行かないでしょう。病気の場合はホストクラブに何回か通って高額であることがわかっていても将来問題が起こるとわかっていても、それでもホストクラブに行きます。この辺が病気との境といったら良いと思います。

病状

20歳台の若い女性が発症しやすい。若いために社会性に乏しく、急速に重症化します。売掛システムや女性の恋愛感情を利用したホスト側の悪質な営業のために、徐々に来店回数が頻回になり、さらに1度に高額の支払いをすることも増えていきます。担当ホストの売り上げに貢献することが本人の生きがいになってしまい、バイトのために休職や退学せざるをえなかったり、多額の借金をするといった問題に発展しがちです。

経過

病状の進行につれ借金も増大し、家族の知るところとなりますが、この時点ではすでに売春やパパ活、風俗で働いていることが多く、たいていの家族は強く反対しホストクラブへの出入りを禁止します。しかし本人は「担当ホストのために稼ぎたい」「自分しか助けてあげられない」という強い気持ちから衝動を抑えることができず通い続けます。やがて家族の関係性が悪化していき、本人は口うるさい家族に対する不満を担当ホストに愚痴るようになり、これを聞いた担当ホストは営業成績をさらに上げる手段として、一人暮らしや自分との同居を持ちかけることが多く、ホストのアドバイス通りに家族と別居すると、本人の世界には、ホストクラブと稼ぐための仕事しか存在しなくなり、限られた環境下で視野狭窄に陥ってしまいます(「推しに貢ぐことは一番の幸せであり、そのために必死になっている私はすばらしい!」)。その結果、病状は急速に悪化し経済感覚も狂い、この生活から自力では抜け出すことが困難になります。

その後担当ホストと借金の件でトラブルになり別れることもありますが、他のホストと同様なことを繰り返しがちです。一般的にはこの状態が数年続き、年齢が上がり売春しにくくなると、次の段階に進みます。この段階ではすでに経済的・社会な問題が膨れ上がっており、強迫的性行動症というより他の精神疾患を合併し自ら悩んで精神科を受診することも多くなり、一般的な女性の生活像と異なるようになります。

発症要因

特定の発症要因がなくても発症しますが、以下の様な場合には発症しやすくまた重症化しやすくなります。

発症要因-①

発達障害がベースにある場合

問題が起こるまで精神科を受診しておらず発達障害と診断されたことがない人が多いが、ホストクラブに通うようになってから精神科を受診して初めて発達障害と診断されることが多い。固着傾向、対人関係の困難さから自己肯定感が低い場合も多く、それが発症する誘因となりやすい。

発症要因-②

生育環境の問題が大きい場合

自己肯定感が低い場合が多く、担当ホストのためにお金を使うことで大事にしてもらえたりほめてもらえたりと承認欲求を満たすことができ、発症する誘因となりやすい。

発症要因-③

境界知能である場合

知的障害ではありませんが、IQ70~84に該当し、さまざまな場面で生きにくさを感じます。

治療法

本来であれば問題が悪化する前に対策を立て、予防することが一番ですが、恋愛や娯楽(ホストクラブ、Youtube視聴、推し活)は世の中で普通に受け入れられているものであり、それ自体悪ではありません。
しかしながら衝動の抑制が苦手な人にとっては、こういった活動を娯楽の範囲にとどまらせることが難しく、経済的あるいは社会的な問題につながります。発達障害等で衝動の抑制が苦手な人の場合はさらに大きな問題に発展します。こうなるともはや冷静に物事を考えることはできず、パートナー、ホストなど関心のある対象のことで頭がいっぱいな視野狭窄状態に陥ります。そのため、問題や自身の思考を整理し、広い視野を取り戻すために集団精神療法、カウンセリング等を行います。

また、対象のパートナーやホストクラブから距離を置くことはもちろんですが、これだけでは弱いことが多く、このような対象に近づけないような生活習慣を作ることも重要です。こういった場合、当院のグループホームに入居することで物理的に関係を持てない環境にすることが可能です。さらに、お金を稼ぐために夜の仕事をして昼夜逆転の生活になっている方もおり、当院の就労支援を利用することで昼間の仕事に就き、規則正しい生活習慣を取り戻すことも可能です。

なお、対象に貢ぐことが当たり前になってしまうと普段の金銭感覚から狂ってきます(1万円が100円玉のように感じる!)。就労訓練を終え一般就労となれば当然収入が増えますので、そのときにまた衝動的にお金を使ってしまうことのないよう、限られたお金の中で計画的に生活できるような金銭感覚の訓練も行えます。

① 発症初期

発症初期で借金が少額で売春等も目立たない軽症のケースでは、強迫的性行動症の集団精神療法のみで回復するケースが多くあります。

② 重症化

重症化するとホストの営業から守るために、スマホを手放したりグループホームへの入居が必要となるケースが増えてきます。

③ さらに重症化

さらに重症となり、日中に大学や仕事に行かず、パパ活や売春をしているような場合は、グループホームに入居するだけでは止めることができないために、日中の生活リズムを整えて日中の暇な時間を減らすようにして売春行為を防ぐようにします。

④ 重症化の後

このようにしますと一時的にはホスト通いも止まることが多いのですが、ホスト通いが数年間も続いている場合は20歳台という社会的教育を受けるチャンスを失い、本来の問題点である自己肯定感の低さも加わって、一般社会に戻るには大きなハンデを背負うようになります。このような非常に重症化した場合は日中の就労訓練等は自己肯定感の改善や経済感覚の修復、生活リズムの再獲得に有効なためにほぼ避けて通ることのできない治療法になります。

⑤ 集団精神療法

治療は個人精神療法では不十分であることが多く、重症の場合は同様の問題行動で悩んでいる患者同士で行う集団精神療法が必要となります。

⑥ 自己破産

自己破産の利用を考えている場合、少なくとも1年間はホスト通いがやめられかつ病状が安定した状態で行うべきです。治療早期の時点で自己破産をしてもすぐに再発してしまい、新たに借金を作る場合が多く、こうなると返済する術がなくなり、将来的に新たな重大な問題を起こします。自己破産の時期に関しては弁護士との十分な相談が必要です。

⑦ 家族相談

家族が本人のホスト通いを知り、やめさせようとあれこれ口を出して本人との関係性が悪くなってしまってる場合が多く、新たなコミュニケーションパターンを築くことで関係性の修復を行えますと、その後本人を受診につなぐことができます。このために家族向けのプログラムに参加し学ぶことが重要です。
依存症専門外来

家族相談

上述の状態になると、自ら治療の必要性を認識し進んで治療を受けることが難しくなります。問題が大きくなってから初めて家族が知ることもよくあります。例えば、娘に対し「最近夜遊びが多いなぁ」と思っていたらその半年後に300万の借金があることがわかり、何に使ったのか問い質して、初めてホストクラブに通っていたことが判明するケース。それでもなお家族に返済を求め、娘自身はまだホストクラブに通い続けようとすることがあります。

家族としては一刻も早く娘を夜の街から引き離したい一心ですが、娘自身がホスト通いをやめたいと思わないとなかなか止めることが困難です。一方で、娘が自身の問題と向き合うために家族がサポートできることもあります。当院では家族相談を行っています。ときに問題に直面させようとする家族の関わりは、かえって娘の問題行動に拍車をかけることもあり、お互い感情的に傷つけあったり無視をしたりと関係悪化に繋がることもあります。困ったことがあったときに相談してもらえるように、まずは関係改善のための取り組みから始めましょう。

家族相談は遠回りに思えるかもしれませんが、ご家族が今できる最善の行動です。

本人が来たがらない場合

まずは対応を相談するためにご家族が受診してください。強迫的性行動症は家族とのコミュニケーション次第で問題行動は悪化も改善もします。本人との関係性が改善すれば治療に繋げる機会も増えるので今すぐご相談してください。