クレプトマニアの原因・発症の要因
クレプトマニアに陥る脳のメカニズム
依存症とは、ある物質の摂取やある行為を行うことで問題が生じてしまうにも関わらず、その行動をやめられなくなる病気です。「やってはいけないとわかってはいるんだけどやめられない」というコントロール不能の状態に陥ります。このような人に対し、かつては意志の弱さや倫理観の低さのせいであると思われがちで、精神的な病気であるという認識はほとんどありませんでした。しかし実際には脳の仕組みそのものが変化してしまっているのであり、条件さえ揃えば生まれや育ち関係なく誰でもなりうる病気なのです。
ではクレプトマニア(病的窃盗、窃盗症)になるまでにはどのような経過を辿るのでしょうか。
どのような依存症も、始まりはちょっとしたきっかけです。万引きは犯罪であり、他の依存症ほど身近なものではありません。しかし、10代の頃遊びで行っていた万引きを思い出しふと「できるかも」と試してみたところ成功したケース、他の人が万引きしている光景を見かけ自分も試してみたケースなど、最初は軽い気持ちで行っています。後に依存症になる方は、このときの刺激的な成功体験、達成感、お得感などに心を奪われます。そしてその後も何度か万引きを成功させるうちに習慣化していきます。何らかの問題(対人的・経済的・身体的・精神的な問題)が生じたとしても、やめることが困難になります。この一部の人の脳にはある変化が起きています。
クレプトマニア(病的窃盗、窃盗症)の脳の仕組みを理解するには、ドーパミンと呼ばれる神経伝達物質が不可欠です。ドーパミンは快楽物質であり、これが脳内に分泌されることで生き物は快楽や喜びを感じることができるのですが、万引きを行うことでもドーパミンは分泌されます。つまり、万引きが習慣化すればするほどドーパミンが分泌される頻度も増え、快楽や喜びを感じやすくなります。
これだけ聞けば良いことだと思うかもしれませんが、恐ろしいのは神経伝達物質は有限なものであるということです。永遠に分泌され続けることはなく、すぐに枯渇します。すると、それまでの強烈な快楽が得られなくなるためにさらに万引き行為は促進され、ドーパミンは枯渇し、むしろ焦りや不安、退屈感といった不快体験が増えていく…という悪循環に陥ります。このレベルにまで達すると脳は快楽だけを求めて体に指示を出すため、簡単には抗えません。
このような経過を経て、「やってはいけないとわかっているんだけどやめられない」という依存が形成されます。