収監者との文通:Oさんとの往復書簡 H26/12/5

標準

<O⇒鈴木>
前略
11月に入り昼より夜の時間が長くなり、涼しさから寒さを感じる季節になって来ました。大石クリニックスタッフの皆さんは元気でしょうか?
鈴木先生からのフイードバックは11月6日に届きました、本当にお忙しい中のお手紙有り難うございます。今回のお手紙で「ストレス発生のメカニズム」を読ませて頂き、一口にストレスと言っても、ちゃんと体の中でこのよな「駅伝」が行われているとは思っていませんでした。
前回の依存行動や今回の「ストレス発生のメカニズム」など、私は精神的なものは全部脳が勝手にやっているのだと思っていたのですが、脳が働くにしても、そこから脳内物質やホルモンが出ているから次々と連絡が行きそれが問題を起こす原因だと理解する事ができました。今迄、先生に書いて頂いた手紙は出所後にスクラップにして一生物にしたいと思います。
10月末から11月の1週目に「行動ステップ分析」の発表がありました。私が今回の懲役になった犯罪の内容の件で何を治して行くかの目標みたいなものが見えて来ました。今回の「強制わいせつ」の犯罪につながる元のものが、今迄30年くらい付き合っている「のぞき目的の建造物侵入」で、それが全事件の元になっているのだと分かって来ました。メンテナンス段階から「のぞき」が入っている為、次の蓄積段階で色々な事があっても全然無意味で、急性トリガーなんて言い訳にしかなりません。
今回のような犯罪を止める為にはこの30年間積み重ねて来た事を掘り起す事が大事なんだと分かりました。この教育も半分が終わり、次からテキストも4冊目に入ります。これから先はセルフ・マネージメント・プラン作成の為に時間を使って行くと思います。
ここでの教育中に他の施設から私達が行っているミーテイングを2回ほど見学に来ていました。見学に来て勉強して帰るのでしょうが、全国の遠くから見学に来なくても良いように教育が出来る施設を増やした方が良いと思います。私達も移送の度に所内生活のルールが変わり、それに慣れないままに事故を起こし罰を受け、教育へのモチベーションを低下させるような事は避けたいと思います。
それと、前週末、矯正展があり、それに出す為に私たちが教育を受けている写真を撮って行きました。もちろん顔が出るような事は無いのですが、刑務所で性犯罪教育を受けた人が同じ再犯を犯して再び刑務所に戻って来る事を、一般の人達はどのように思って私達の教育の写真を見ているのでしょう。考えてしまいますね。私は私なりに他の5人の教育メンバーに「出所後は再犯防止の為に必ず自助グループなどに参加して、自分の心にあるリスクを忘れないようにしよう」と声掛けしていますが、無駄な気もしてきました。私だけ別の空間にいるようで、心が折れそうになる事があります。
実は、この様な事を書いた理由は、私が今いる工場からこの10月中旬に出所した人が直ぐにまた逮捕されたからです。その人はこの刑務所から他の刑務所に行ってR3(性犯罪教育)を受けた人でした。11月の早い時期の新聞に、その人が性犯ではありませんが逮捕されたと報じられたいました。罪名は違いましたが「性嗜好異常」を内容とする犯行であるのは確かです。
私がこの文通で何度も同じような事を書いているのは、刑務所の教育がただ決められているからやっているだけとしか思えない事が実際に起こってしまったからです。このような小さな事件は地方紙のスミの方にしか書かれていませんが、このような地方紙のスミの事件を集めて、その中から刑務所で教育を受けてスリップした人(再犯した人)の数を集計すると大変な数になるような気がします。これは薬害の話ですが、「刑務所で薬害教育を受けても、何の意味も無かった。仮釈の為に受けているんだ」 これが受刑者の考え方です。性犯罪教育も同じで、ターニングポイントに達していないのに、気づいていないのに教育を進めたって、実際のところその場だけの事でしかないように思います。だから私の目に入るような事が起こるんですね。辛い話です。この手紙を読まれている方々は一日も早く気づいて、依存症治療。カウンセリング・自助グループへの参加などで今後の人生を楽しんでもらいたいです。

11月も残り1週間となりましたが、こちらは11月の割には暖かいような気がします。
鈴木先生からのお手紙の中に「趣味」をやってストレスを減らすようにといった内容が有りましたが、私はこちらに来る前からスペイン語を自主的に勉強しています。理由はペルーのマチュピチュやナスカの地上絵、クスコの街を旅したいからです。それと2026年にスペインの「サグラダファミリア聖贖罪協会」が完成します。今回の懲役でスペイン語辞典を買って、NHKのスペイン語テキストで毎日自主学習を続けています。刑務所内で本を購入すると、本の持ち主を明確にする為に小示がノリで貼られてしまうので、出所後はがす時に本の方がはがれてしまい、目についてしまいます。本を大事にしている私は本当に頭に来ます。職員に言わせると「イヤなら来るな!!」ですって。
スペイン語はこの施設に来る前はほぼ毎日やっていたのですが、今は教育があるので毎日はできません。でも実は同じ工場内にペルー人がいます。その為工場出役の時は「獄内留学中」ですので、毎日学習できていると思います。私は学生時代勉強が苦手で、特に国語の文法が駄目だったので今のスペイン語の文法で引っ掛かってしまい大変な思いをしています。でも面白い事にスペイン語の文法を勉強する事で日本語の文法を理解してきました。でも手紙の文法はメチャクチャですが(笑)ペルー人の分からない日本語は私がスペイン語に、私の分からないスペイン語はペルー人が日本語にと協力しあっています。この施設にはあと6ヶ月くらいしか居ないので、少しでも会話が出来るようにと思っており、あと少しで3冊目のノートも終わります。
このペルー人は以前は横浜に住んでいて、川崎に有るペルーのレストランを教えてくれたので食べに行くつもりです。世界で2番目に使われている言語・スペイン語で旅をしたいのですが、その為にも今闘っている依存症に勝って行かないと何も実現しませんから、今が一番大事ですね。鈴木先生がやられていた「ジャーマン」ですが、申し訳ありませんが頭に浮かばなかったです。ごめんなさい。
ここまで、私が今現在の施設内で出来る趣味らしき事を書きましたが、ストレス発散の一部にはなっているのかな?確かに自分の夢と言えば理解できますが、それは長期的なものであり、今この場所で溜まってしまったストレスを発散させる方法が必要です。今月も官の方からの「ストレスを上手に発散しろ」との文書を読みました。その文書を書いた人達がストレスを溜めさせる事をする滅茶苦茶な場所で生活しなくてはいけない事がストレスです。 ストレスの無さそうな人達を見ていると遊びで懲役に来ている人が多いですね。調査になっても笑っていられる人がストレスを感じていないように思われます。私は今回を最後にしたいと思って真面目にやってきたのに、このように官が無理やり懲罰にした事でモチベーションが下がり、笑いがなくなり、精神的にこじれてしまって今の自分が居ます。その為、認知の歪みから殺意が浮かんで来る事もしばしば・・・セルフトークで修正しながら何とか人間らしさを保って頑張っています。
以前に読んだ本の中に、チンパンジーの実験で、同じ失敗を繰り返した験体の方が脳の中にできるネットワークが多く、強くなると書いてありました。私は今まで数える事の出来ない犯罪を繰り返してきて、見つかっての逮捕10回以上。懲役も4回目。チンパンジーのように脳の中のネットワークが強くなった今でこそ、自分を振り返って行きたいです。流行りの言葉で言うと「レッツ イット ゴー」 ありのままに生きて行ける人間になる為がんばります。
法を守らなければいけない人が不正をして正しいと言う時代、今迄まちがっていた事を正して先を見て進んで行ければ良いかなと思います。これが私の修正セルフトークですが、まだ弱いですね。もっと強いものにして行かないと、殺意を忘れないと人生終わってしまいますからもっと頑張ります。
SAのプリント有り難うございます。こちらの施設では会場が遠いのでセッションの中でも話は出ませんが話はしています。私は仲間には再犯して欲しくないので。
最後に、2回に渡る私の好きな潜水艦の話題を有り難うございます。私は横浜に在るドックで潜水艦の修理をした事もあります。
今年もあと1ヶ月になりました。年が明ければ刑期も残り1年少々。頑張って行きたいですが、この下がったモチベーションを上げる方法が見つかればと思っています。大石クリニックのスタッフの皆さん、お元気で。

草々
平成26年11月28日出し O

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<鈴木⇒O>
O 様
前略
今年も最後の月・師走を迎え、街にはX’masソングが流れる中、お手紙:2日に届きました。
前回の私からの手紙に書いた「ストレス発生のメカニズム」としての各種物質の「駅伝」について御理解いただけたようで嬉しく思います。もう一度復習の意味で簡単に言えば、ストレスによって脳内で生じたホルモン駅伝のタスキが副腎にリレーされると、そこでコーチゾルという俗に言うストレスホルモンが生成されるという話でした。
このコーチゾルが、身体的には血圧や脈拍数を上げ、精神的には不安や怒りを増大させるわけです。ストレスの原因が除去されず継続すれば、この心身両面での不快な状態も継続するわけです。
では、一旦ストレスの種が発生し、脳から副腎へのホルモン駅伝が始まってしまったら、もうそれを止める事が出来ないのでしょうか? 答えは「ノー」です。止められます。
では、どうすれば? 9月の私の手紙で、AAやSAなどの自助グループで行われている「平安の祈り」というのを御紹介しました。念の為もう一度書きます。

=平安の祈り=
神さま、私にお与えください
自分に変えられないものを受け入れる落ち着きを
変えられるものは変えていく勇気を
そして、二つのものを見分ける賢さを

この祈りにOさんからも深い共感を頂いて、返事のお手紙では、これに教育で学習された「静的リスク」、「動的リスク」の意味を書き加えて、こう書いて下さいました。

神さま、私にお与えください。
変える事の出来ない静的リスクを受け入れる落ち着きを
変える事の出来る動的リスクを変えていく勇気を

と、書いて頂きました。そして更に、「自分自身がその二つをしっかりと見分ける事が出来れば性加害を減らす事が出来ますね。この平安の祈りは、私達性加害で苦しんでいる人達にもぴったり合いますが・・・」と書かれています。そこで、Oさんに二つほどお尋ねしたいと思います。
①:「ストレス生産工場」である刑務所で日々生産されているストレスは変える事のできない「静的リスク」なのでしょうか? それとも、変える事のできる「動的リスク」なのでしょうか?
②:「静的リスク」なら、どうやってそれを受け入れ、心の落ち着きを得れば良いのでしょうか?「動的リスク」なら、それをどう変える事ができるのでしょうか?
以上の2点について、Oさんご自身で考えて次のお手紙で答えを頂ければと思います。私なりの考えや答えも持っているつもりですが、先ずは、刑務所でのストレスに日々悩み、苦しんでいる当事者であるOさんの想いを聴きたいと思います。

そうでしたか!! NHKのラジオテキストでスペイン語の勉強をされていたんですね。素晴らしい趣味だと思います。以前にも話したと思うのですが、私も高校3年の春にジャーマンの勉強を始めた時は、やはりNHKのラジオ「ドイツ語入門」から始めました。NHKの外国語テキストというのは流石に当代一流の講師、講師陣が編集しているテキストであり、学習プログラムだけに生徒側が意欲をもって受講し続ければ非常に効率の良い勉強ができると思います。私が高3の春からの1年の勉強で翌年春の大学入試をドイツ語で受験し、第2志望校ながらも合格できたのはやはりNHKのテキストのお蔭様だったと今でも感謝しています。それと、同じ工場にペルー人の方が居て「獄内留学」ができるというのも勉強を楽しくしてくれているのでしょう。それも学習の効果を倍増させるものだと思います。それは又、出所後の再犯防止にも役立つ筈ですので、これから始める「セルフマネジメントプラン」(SMP)にもしっかり折り込めると思いますので、そんな形でも役立てて頂ければと思います。

それでは、また次のお便りを楽しみにお待ちしています。これから年末に向かい、忙しく、そして寒い日々が続くと思いますが、健康にはくれぐれも気をつけてお過ごし下さい。
草々
平成26年12月5日 大石クリニック相談員 鈴木達也

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