収監者との文通 Aさんとの往復書簡 H26/12/18

標準

<A⇒鈴木>
前略
鈴木さん、お手紙届きました。いつも有り難うございます。日ごと寒さが厳しくなってきましたが気合を入れて乗り切るしかありません。

この手紙が届く頃には将棋大会の一回戦が終わっていると思いますが、結果は次回の手紙で報告できると思います。私の予想では一回戦敗退です・・・↘ 今年は昨年のメンバーの力量とは雲泥の差があり、とても一回戦を突破できるとは思えません。でも対戦相手の方もどれ位の力量なのかは分からないので、あとは運に任せるしかありません。私だけでも何とか勝利したいです。三人一組なので、二人が勝てば良いのですが、どうなることやら・・・。良い報告が出来ればと思います。

近況報告はこれ位にして、依存症の話を始めます。鈴木さんからの手紙にあった「仲間の顔を思い出すと欲求に勝ち、そういう経験を積み重ねる中で自信もつき、安心感も強くなって行く」というのは何となくですが、私も分かります。今回私が窃盗をする前にはやはり大石クリニックの事が頭に浮かびました。その時、やっては駄目だと思い窃盗をしない時期もありましたが、お金が足りるのかという不安の方が大きくなって窃盗をしてしまいました。その時にもう一度、大石クリニックの事や、仕事、友人の事を頭に思い描ければ良かったのですが、それも出来ず、欲求に負け窃盗をしてしまいました。
一度してしまうと、後はずるずると行ってしまいました。何度も、駄目だ、止めようと思ったのですが、つい窃盗が出来そうな場所を見つけると欲求に負け窃盗をしてしまいます。最初の窃盗を我慢して行わなければ犯罪とは無縁の生活が出来ると思うのです。この『最初』というのがクセモノで、窃盗の欲求というのは日を変え何度も現れて来るので、例え今日の欲求を我慢しても翌日にはまた現れるかもしれない。そういう意味で「最初の窃盗」を行わないのは毎日が闘いだと思うのです。
こういう感情が起きた時に、同じ想いを持った人達、仲間を思い浮かべ、欲求に克つ事が大事で、それを一日一日と続けて行けば自信にもなって行くのだと思います。今の私は自助グループに参加した事が無いので、同じ想いを持つ仲間の顔は思い浮かびませんが、過去の受刑生活で仲良くなり外でも会った人達の顔を思い描く事はできます。その人達はもう10年近く犯罪とは縁の無い生活を送っていて、普通の生活をしていて、結婚して子供がいる人もいます。私とは犯罪の種類が違うのですが、真面目に生活できて羨ましいなと思っています。私が出所して連絡すると、いつも「もう、いい加減にして、悪い事はやめろ」と言って、私も「うん」と言うのですが、なかなか止める事が出来ずにいました。
でも何度も大石クリニックの鈴木さんと手紙をやりとりしている内に、依存症の治療法を学び、教わりました。出所後はそれを忘れず実践して行けたらと思います。「今日一日」をきちんと送る。「Just for today」を実践し、「今日も大丈夫だった。明日もこの調子で行くぞ」と、小さな自信を積み重ね、日々を大切にして行きたいと思います。
欲求に負けそうになったら、鈴木さん、刑務所生活から脱却した友人などを思い浮かべ欲求に負けない習慣を身につけて行きます。そして本当にこれを最後の刑務所生活にします。

日を増すごとに寒さが厳しくなりますが、風邪などひかぬ様、お身体をを御自愛ください。そして良い年をお迎えください。

草々

平成26年12月12日  A

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<鈴木⇒A>
A様
前略
Aさん、こんにちは。寒いですね。今年の冬は地球温暖化の影響で寒い冬になる?そうです。「温暖化で寒くなる」?という、何だかややこしい話を昨日のTVで話していました。見るでもなく偶然耳に入っただけの話でしたが、なんでも「温暖化で北極の氷が溶けているのが原因で北極の冷気が南に下りて来て、それが寒波となって押し寄せて来るので寒い冬になるのだそうです。「温暖化」⇒「寒い冬」と、原因と結果が矛盾しているように見えても因果律の過程で逆転現象が起き得るんですね。だから物事の本質は、表面的な所だけでは分からず、やはり科学的な分析が大事なんだなとTVラジオ?を聴きながら思いました。
そう言えば、以前にも話したと思いますが、各種依存症の原因は世間一般で思われているような表面的な意志の弱さではなく、意志の強さにあるのが真実なようですね。依存症者には、元々何事にも好奇心が強く何かに集中するとトコトン完璧にやり遂げないと気が済まないという人が多いようです。それで疲れてストレスが蓄積し、そのはけ口を各種の依存対象に求めて依存症に至るというケースが非常に多いようです。
そんな依存症者の一人をご紹介しましょう。やはり刑務所からこの公開文通を続けいるMさんという方なのですが、Mさんがどんな道を歩んで来たのかのお話をしたいと思います。
Mさんも以前は完璧主義が強く、組織で動く職場で一人だけ完璧主義で突出した仕事をしようとして周囲と歯車が合わずに反発を買っていたそうです。Mさんはそんな周囲の反発に対して再反発してますます浮き上がってしまい、その不満が性依存症という病気に火をつけ、それで犯罪に走ってしまったようです。そんなMさんは受刑生活に入ってから、自主的に「自己改善ノート」という物を作り、犯罪にまで走ってしまった原因と反省を忘れないようにそのノートに書き込み、毎日それを読み返しながら完璧主義による言動・行動を改めてきたわけです。工場では常に笑顔を絶やさぬようにしながら周囲と協調して作業を務めて来たそうです。その歩みの中で2年前に工場の班長になり、その立場からも班員全体が協調して作業できるように努めながら、日々の作業で中心的な役割を果たして来ました。同時に又、Mさんも簿記の勉強を始め、3級を受験して見事に合格し、今、次は2級に挑戦すると言って頑張っています。そして又、3年ほど前からのこの文通も月1回のペースを崩さず継続しています。
そんなMさんから11月の初めに届いた便りで「優遇区分の1類に昇類しました」との嬉しい報告がありました。突然の朗報に私も喜ぶと同時に驚いたのですが、今日までの文通の3年間を振り返ってみると、成る程、成るべくしてなった1類だなとつくづくそう思いました。そして、返事の手紙でお祝いのメッセージを送ったのですが、こんな文面でした。

「1類昇類おめでとうございます。また新たな決意での歩みを始めている様子に私も大変嬉しく思っています。簿記3級の次は2級をとの事で、それもぜひ頑張って下さい。以前にも話したかと思いますが、この大石との文通者の中にAさんという方がいるのですが、Aさんも刑務所内での独学で簿記3級、2級とクリアして、次は1級をと頑張っておりますので、Mさんも希望を持って勉強を続けてほしいと思います」

というお祝いのメッセージで、Aさんの努力と成果の事実を伝えました。いくら励ますと言っても、嘘を書くわけには行きません。その意味でAさんの努力と成果の事実が、大石で行っているこの文通に大きな力を授けてくれているわけで、Aさんには本当に感謝、感謝、感謝・・・です。
えーと、何の話をしていたんでしたっけ? そうそう、依存症者は決して意志の弱い人種ではないという話でしたね。問題はその強い意志を何処に向けるかで、人生街道が天国になるか、地獄になるかの両極端の差が出て来るのだと思います。Aさんの場合には、塀の内・外の往復を続けるか、独立して公認会計士の事務所を開くか? で、これは正しく天国と地獄の差ですよね。この事を一瞬たりとも頭から放さずに歩み続けて欲しいと思います

さて、今回のお手紙を前回のと一緒に読み併せて、改めて依存症という病気との付き合い方をよく把握されていると感じ入りました。依存症回復試験というものがあるとすれば、筆記試験に合格と言って良いと思います。最終合格に向けての次の課題は実務経験3年(笑)といったところでしょうか。「実務経験3年」とは、出所してから実社会で筆記試験の内容を実践して、ギャンブル(バカラ)及び窃盗を完全に断ち切り、普通の市民生活・職場生活を3年間続けるという意味です。3年という意味は回復の軌道に乗るまでという意味です。アルコールの場合には3年断酒すれば80%以上の人が断酒の軌道に乗れるという統計が報告されています。

それでは、これにて私からの本年最後の便とさせて頂きます。この1年もこの文通を続けて頂き、私にとっても大変勉強になっております。来る年もどうぞ宜しくお願い致します。寒い中お身体に重々気をつけて、良い年をお迎えください

草々

平成26年12月18日
大石クリニック相談員 鈴木達也

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